『母を恋ふる記』あらすじ 感想

灯りを目指して

七十本目の電信柱を数えた時でした。

遠い街道のかなたにはじめて、一点の灯りがぽつりと見えだしました。

こんどは潤一はその灯りを目標に歩き出しました。

しかし灯りは、近いと見えてかなり遠いようで、なかなかたどりつきません。

灯りの大きさはいくら歩いても提灯ぐらいのままです。

潤一はときおり、

あの灯りは自分と同じ速度で前に進んでいるのでは?
と思います。

数十分ぐらい歩いてやっと灯りは大きくなり、強く鮮やかになりました。

あいかわらずカサカサという音が聞こえます。

灯りに照らされた音の方を見ると、それはあたり一面の古沼で沢山の蓮が植わっていました。

蓮は枯れかかっていて、その葉が風の吹くたびにカサカサという音をたてていたのです。

潤一は古沼を眺めました。

非常に大きな沼のようで、見渡す限りが沼と蓮です。

潤一はその中にたった一点赤い光を発見しました。

あ、彼処に灯が見える。

彼処に誰かが住んでいるのだ。

あの人家が見え出したからには、もう直き町へ着くだろう

幼い潤一は嬉しくなって、明るく照らされた街道から暗い方へと歩き出しました。

500から600Mぐらい歩くと灯りはだんだん近くなってきました。

そこには一軒の茅葺の農家があって、その家の窓の障子から明かりが洩れていました。

潤一はこう期待します。

あのわびしい野中の一軒家には、私のお父さんとお母さん がいるのではないかしら。

彼処が私の家なのではないかしら。

あの灯の点っている懐かしい窓の障子を明けると、年をとったお父さんとお母さんとが囲炉裏の傍で粗朶を焚いていて、

「おお潤一か、よくまあお使いに行って来てくれた。さあ上って火の傍にお出で。ほ んとうに夜路は淋しかったろうに、感心な子だねえ」

そう云って、私をいたわって下さるのではないかしら。

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