木村
一月七日 (夫の日記)
この小説の主要登場人物は四人です。
夫、妻(郁子)、娘(敏子)、木村。
敏子は結婚適齢期の娘で、木村は敏子のお婿さん候補です。
木村は夫、妻、敏子の家によくやってきて、妻とも親しく交際しています。
その日は木村がやってきて、妻と敏子と三人で映画を見に行った後、また三人で夜の六時ごろに戻ってきました。
そして木村を交えて家族で食事を始めます。
食事のとき敏子以外はブランデーを少量ずつ飲みました。
その晩は木村がシェリーグラスに二杯半まで妻にお酌をしました。
妻が夫以外の男性からブランデーの杯を受けたのはその夜が始めてです。
夫は妻と木村の関係を疑っています。
木村は結婚相手の候補の敏子よりもむしろ郁子に親愛の情を示す傾向があるのでした。
そして郁子も通常は来客に対して無愛想で、とくに男の客には会いたがらないのに、木村だけには愛想がいいのです。
また妻はジェームス・スチュアートという映画俳優のファンなのですが、木村はジェームス・スチュアート似なのです。
もっとも木村は夫が娘の結婚相手にどうかと思って家につれてきて、妻に二人の様子を見ておいてくれといったのがきっかけで木村と郁子の交際がはじまったわけですが……
また敏子も木村と二人きりになるのを避ける様子なのです。
夫は
と疑っています。
一月十三日(夫の日記)
夕方四時半ごろに木村が来ます。
国からカラスミが届きましたから、とお土産をもってきたのでした。
一時間ぐらい話した後帰ろうとするのを夫が引きとめて、夕飯を食べていくように薦めます。
おつまみになるカラスミ、昨日買ってきた鮒鮨があったので、すぐにブランデーになりました。
夫は
夫はもし自分が木村だったら、妻のほうに惹かれるだろう。
妻は年はとっているけれど娘より美人で、色香もある。
しかし木村がどう考えているかなんてわからない。
もしかして木村は敏子を愛していて、敏子が自分との結婚にあまり乗り気でなさそうなので、まず郁子と親しくなって、郁子を通して敏子を動かそうとしている?
などと考えます。
夫は去年から木村に嫉妬を感じていました。
しかし夫自ら、木村が郁子とより親しくなるような言動をしてしまいます。
たとえば今日木村に夕飯を食べていくように誘ったのは夫でした。
そしてその理由は自分でもよくわかっていました。
木村が来た日の夜はいつもよりセックスに強くなり久しぶりに妻を満足させられるのです。
木村への嫉妬は満足いく性生活のための刺激剤となるのでした。
夫は木村と妻の関係を
などと考えています。
一月十七日(夫の日記)
酔いを隠して青ざめた顔をしている妻は色っぽくて僕は好き!
妻を酔いつぶして、その美しい足を触りたいがなかなか触らせてくれない。
一月二十日(妻の日記)
夫や木村さんの前で取り乱したことはないが、そろそろ限界だ、用心しなければ……