谷崎潤一郎『少年』あらすじ

内弁慶な信一

信一は「此方へお上がんな」と甲高い声で怒鳴りながらやってきます。

学校では弱虫なこの子がどうしてこんな元気な声をだせるのだろう? と栄ちゃんは不思議に思います。

信一は見違えるほど立派に盛装していました。

黒羽二重の熨斗目のしめの紋附に羽織袴を着けて立った姿は、縁側一杯に照らす麗かな日をまともに浴びて黒い七子なゝこの羽織地が銀沙ぎんすなごのようにきら/\光って居る。

にぎやかなお祭りの音を聞きながら、出されたお菓子をほおばります。

信一によると、今二人がいる部屋は、信一の姉の部屋らしいのです。

「ここには沢山姉さんの面白い玩具があるから見せてあげるよ」と信一は言います。

ここで昔風の玩具が沢山登場します。

信一は地袋の中から、奈良人形の猩々や、極込細工の尉じょうと姥うばや、西京の芥子人形、伏見人形、伊豆蔵人形などを二人のまわりへ綺麗に列べ、さま/″\の男女の姿をした首人形を二畳程の畳の目へ数知れず挿し込んで見せた。

二人は布団へ腹這いになって、髯ひげを生やしたり、眼をむきだしたりして居る巧緻な人形の表情を覗き込むようにした。

そうしてこう云う小さな人間の住む世界を想像した。

「まだこゝに絵双紙えぞうしが沢山あるんだよ」
と、信一は又袋戸棚から、半四郎や菊之丞の似顔絵のたとうに一杯詰まって居る草双紙を引き擦り出して、色々の絵本を見せてくれた。

二人が心惹かれたのは残酷なシーンを描いた絵草紙でした。

丁度此の屋敷のような御殿の奥庭で、多勢の腰元と一緒にお姫様が蛍を追って居るかと思えば、淋しい橋の袂で深編笠の侍が下郎の首を打ち落し、死骸の懐中から奪い取った文箱の手紙を、月にかざして読んで居る。

其の次には黒装束に覆面の曲者くせものがお局つぼねの中へ忍び込んで、ぐっすり寝て居る椎茸髱しいたけたぼの女の喉元へ布団の上から刀を突き通して居る。

又ある所では行燈の火影かすかな一と間の中に、濃艶な寝間着姿の女が血のしたゝる剃刀かみそりを口に咬くわえ、虚空こくうを掴んで足許に斃れて居る男の死に態ざまをじろりと眺めて、「ざまを見やがれ」と云いながら立って居る。

信一も私も一番面白がって見たのは奇怪な殺人の光景で、眼球が飛び出して居る死人の顔だの、胴斬りにされて腰から下だけで立って居る人間だの、真っ黒な血痕が雲のように斑ふをなして居る不思議な図面を、夢中になって覗き込んで居ると、

二人が絵草紙に夢中になっていると、友禅の振袖を着た、栄ちゃんや信一より少し年上の女の子が現れます。

信一の姉の光子でした。

光子は自分の玩具や本で勝手に遊んでいる信一に怒りを表します。

しかし信一も負けていません。

まもなく光子と信一は喧嘩になります。

二人とも非常に気が強いのです。

最後に信一は人形を足で滅茶々々に蹴倒します。

光子が「お父さまに言いつけてやる……」と泣きながら行ってしまいました。

栄ちゃんは女の子の涙をみて心が痛みます。

一方信一はまったくへいちゃら

泣いたっていゝんだよ。

毎日喧嘩して泣かしてやるんだ。

姉さんたって彼あれはお妾の子なんだもの