谷崎潤一郎のおすすめ作品 代表作

谷崎潤一郎のおすすめ作品 代表作

谷崎潤一郎のおすすめ作品 代表作 年代別リスト

谷崎潤一郎は明治19年(1886年)生まれ、昭和40年(1965年)没。
二十代半ばの明治43年(1910年)年から小説を発表し、昭和49年(1965年)で亡くなる79歳まで、50年以上に渡って創作活動を続けました。

谷崎潤一郎のおすすめ作品、代表作を年代順に紹介します。

刺青

明治43年(1910年)発表

短編。

谷崎潤一郎の処女作です。

舞台は江戸時代後期の江戸。

彫り師の清吉はいつか自分の理想とする美女に、自分の思うような刺青を彫りたいと思っていました。

理想の美女を追い求めて4年、ある日料理屋の店先で駕籠から覗いた女性の美しい足を見て、彼女こそは自分の追い求めていた人、と思いました。

その翌年、偶然その足の主だった芸者見習いの若い娘に出会います。

清吉は娘に美女が男を征服するおどろおどろしい絵を見せて、「この絵がお前の心を表している」と言った後、麻酔薬で眠らせました。

清吉は眠る娘の背中に彼の渾身を込めた傑作である、女郎蜘蛛の刺青を彫ります。

目覚めた娘は刺青を喜び、いままでとはうってかわった悪女風の話し方になります。

最後に清吉に背中を見せた後、彼女は男を食らう悪女としての人生を始めたのでした。

二十代半ばの作家の処女作とは思えない、完成した文章。

もっと後の作品とくらべてもまったく遜色がありません。

文末がほぼすべて「た」で終わるのですが、それがかえって迫ってくるような迫力を出しています。

ストーリーはつっこみどころ満載。

清吉のやっていることは立派な犯罪です。

女の行動も、清吉に都合がよすぎます。

特に女性は、ひどい女性の人格無視、男の自分勝手な妄想という感想を持つことでしょう。

あまりうるさいことは言わないで情景や描写を楽しむ小説です。

秘密

明治44年(1911年)発表

短編。

舞台は明治後期(小説の書かれた時代)の東京。

主人公は通常の刺激ではあきたらなくなってしまった若い男性。

あらたな刺激を求めて、町中にさびれた場所を探して、浅草のある寺の中に隠れ住みます。

主人公はそこで香をたいたり、部屋を仏画で埋め尽くしたり、怪しげな書物を読み漁ったり。

ある日古着屋で見つけた女物の着物を着てみたくなり、女に化けて夜の町に繰り出します。

匕首や麻酔薬を隠し持ったりして気分は女装の盗賊。

ある晩女装のまま映画館に入ると、そこでかつて捨てた昔の恋人に再会します。

次の晩から彼女との奇妙な逢瀬がはじまります。

子供から住み慣れた東京の町も、今晩はまるで異境のように見える……

ただならぬ怪しさ……

まだ二十代半ばの若者、新人作家が書いたとはとても思えない完成度。

痴人の愛

大正13年(1924年)発表

長編。

舞台は大正時代の東京。

真面目なサラリーマン技師、譲二が主人公。

譲二はカフェーで、アメリカの活動女優メリーピクフォードに似た女給見習いの美少女、15歳のナオミを見初める。

将来妻とする予定で、ナオミを引き取り同居するようになる。

ナオミと友達のように楽しく暮らしながら、立派な淑女にすべく教育するが……

次第にナオミは手の付けられない奔放な女性に……

そして最後は……

小悪魔的な魅力を持つ稀代の悪女ナオミに翻弄される男の物語。

ナオミの思い切った悪妻ぶりが、かえってすがすがしい娯楽性の高い作品です。

序盤のまだ男女の関係になっていない譲二と少女ナオミの関係は清純でちょっとほのぼの。

昭和3年(1928年)発表。

長編。

舞台は昭和初期の大阪。

主人公はブルジョアの娘、若い有閑マダムの園子。

園子には弁護士の夫がいますが、堅物で園子とそりが合わない。

園子は夫が自分の実家の助けがあって学校を卒業したというのもあるのか、我が儘ほうだいの生活を送っていました。

物語が始まる前、夫以外の男性と婚外恋愛の経験があった彼女は、元恋人を忘れるために、女子技芸学校に通い始めます。

そこで知り合った美しい未婚の令嬢、徳光光子と女同士の恋人になり……

さらに光子とかつて恋人同士だった男も登場します。

そして最後は彼らを心配そうに見守っていた園子の夫もこの三角関係に加わるのでした。

複雑怪奇な恋愛関係を全編口語体(関西弁)で書いた小説です。

徹底した娯楽小説、三面記事小説ともいえますが、恋のはじまりを描いた序盤は自然で芸術的で美しい。

読んでいてねばりついてくるような感覚、それに読者が耐えられなくなるギリギリのところで、さっとラストに持っていくタイミングが見事。

春琴抄

昭和8年(1933年)発表。

中編

舞台は幕末から明治の大阪。

大阪道修町の老舗薬屋の娘、 鵙屋琴 ( もずやこと )は9歳の時に視力を失い、音曲の道に励み、その大家となります。

そんな琴が幼い頃から晩年まで仕えていたのは、琴より4歳年上のもと 鵙屋( もずや )の丁稚、佐助でした。

彼は琴の三弦の弟子でもあり、その関係が公表されていない実質上の夫でもありました。

高慢で芸術の才能ある盲目の美女、琴と、彼女に盲目的に使える佐助の一生。

句読点を極力省いた、独特の文体が特徴的。

一度読んだら忘れれない美しい日本語の傑作です。

タイプ別おすすめ作品

芸術が味わいたいあなたへ

文章の美しさならとにかく『春琴抄』です。

句読点を極力はぶいたこの文体は、本当にこの作品独特のもの。

一度読んではまってしまい、他の谷崎潤一郎の作品をさがしても見つかりません。

翻訳したら価値が半減してしまうような美しい日本語。

そこまで言われる『春琴抄』がどんなものか一度手に取ってみてください。

『春琴抄』以外で、風格ある文章が読みたいなら、谷崎の初期作品の『秘密』『刺青』

ほぼデビュー作ですが、若書き、習作っぽい所は全くありません。

デビュー時からここまで完成されていたことに驚きます。

気軽に読書が楽しみたいあなたへ

谷崎作品は純文学のなかでは娯楽性が高めです。

『痴人の愛』『卍』はエンターティメント小説を読む感覚で気軽に読めるでしょう。

ストーリーは急展開で非常に面白い。

(具体的に言えば登場人物の奔放さは読者の予想以上でびっくり仰天)

そんな娯楽小説のなか時折はっとするような芸術性が紛れ込んでいるのがこれらの小説の特徴です。

ただ芸術性は少々薄味。

芸術目的で読むとがっかりしてしまうかもしれません。

私が初めて読んだ谷崎作品は『春琴抄』だったのですが、それに感動して同じ作家のものをということで『卍』を読んだときは、あれ? という感じでしてた。

また娯楽といっても冒険小説のようなものではなくて、スキャンダルの面白さなのでそういったものが好きではない人には向かないかもしれません。

ゴシップとかスキャンダル大好き、ついつい見ちゃうという人にはおすすめです。

これらの作品は芸術性もある上等のスキャンダル小説といえるでしょう。