継母に甘える糺(ただす)
継母が父の元にお嫁に来た年の秋のことです。
糺(ただす)が乳母と寝ようとしていると、継母が部屋に入ってきてこう言いました。
あなた五つぐらいまでお母さんのお乳を吸っていたらことを覚えている?
そしていつもお母さんに子守唄を歌ってもらっていたことを覚えている?
糺(ただす)が
と言うと、継母はこう尋ねます。
糺(ただす)は
と胸をときめかせて、顔を赤らめてそう答えました。
すると継母は
と糺(ただす)の手をとって、自分の寝室に連れて行きました。
継母の寝室にはまだ父はいませんでした。
継母はごろりと横になり、頭を枕に乗せると、
と言って掛け布団を上げて糺(ただす)を入れてくれました。
ちょうど糺(ただす)の鼻のところに継母の着ている半襟の合わせ目がありました。
継母はこう言います。
糺さん、お乳吸いたいか
長いことばあとばっかりねんねしてて、ほんまに淋しかったやろえな。
お母ちゃんと寝たかったら、何でそうやと早う云うておくれやへなんだんえ。
あんた、遠慮しといたのか
糺が頷くと
けったいな児オえなあ、さあ、早お乳のあるとこ捜しとおみ
糺(ただす)は継母の半襟の合わせ目を押し開き、乳房と乳房の間に顔を押しつけて両手で乳首をもてあそびました。
糺(ただす)は継母の右と左の乳首を代わる代わる口の中に含みます。
しきりに舌で吸い上げてみたけれども、乳はどうしても出てきません。
ちっとも乳出て来やへん、吸い方忘れてしもたんやろか
と糺(ただしが)不思議がると、継母はこう言います。
堪忍え、今にややさん生んで、乳が仰山出るようになるまでまっててや
継母にそう言われても糺(ただす)は継母の乳を離そうとしませんでした。
いつまでもいつまでも継母の乳を舐り続けていました。
昔の生母の懐に漂っていた髪の油の匂いと乳の匂いの入り混じった世界が、乳の匂いはする筈がないのに、糺(ただす)には連想作用でそこにあるように感じられたのです。
あの、ほの白い生暖かい夢の世界、昔の母がどこか遠くへ持ち去ってしまった筈の世界が、思いがけなくも再び戻って来たのであった。
継母は子守唄を歌ってくれました。
糺(ただす)は感動のあまりその夜は寝付けず、ひたすら継母の乳首にかじりついていました。
継母が嫁に来て半年ほどの間に、糺(ただす)は生母と継母の切れ目がわからなくなります。
生母の顔を思い出そうとすると、継母の顔が浮かび、生母の声を思い出そうとすると、継母の声が聞こえました。
次第に生母の印象が継母の姿に変わり、それ以外の母というものが思い浮かばなくなりました。
父の思惑とおりになったのです。
糺(ただす)は十三四歳になってもときどき母の懐が恋しくなり、
と頼んで、継母の布団に潜り込みます。
そして継母の半襟の合わせ目を押し開き、出ない乳を吸い、子守唄を聞きました。
そうしているうちに、すやすやと眠ってしまい、目が覚めるといつの間に運ばれたのか、自分の部屋で一人で寝ています。
糺(ただす)が「一緒に寝させて」と言うと継母は喜んで言われるままにします。
父もそれを許していました。