谷崎潤一郎『人面疽』あらすじ 感想

感想

自分の姿が知らない間に使われている。

しかもそれが、なんとも不思議な怪奇映画となって出回っている。

そんな不気味なストーリー。

動画の編集や合成は現代ならもっと簡単にできますから、ある意味時代の先を行っている作品といえるかもしれません。

ただ物語自体は起承転結でいえば「起」、の部分で終わってしまっていてちょっと物足りなさを感じました。

それよりも小説の中で、架空の映画として紹介されるあやめ太夫と尺八吹きの物乞いの物語ほうが面白いですね。

彼女は遊女だから、物乞いに一晩身を任せるぐらい大したことじゃないだろう
と考える船員と、
あんなキタナイ物乞いと死んでもイヤ!
というあやめ太夫に男女の考え方の違いが表れています。

女性なら

あやめ太夫がそう考えるのは当然だ。
彼女はそれほど悪くない。
それより勝手に物乞いとそんな約束をする船員が悪い。
とあやめ太夫の気持ちがよくわかるのではないでしょうか?

わたしも

この物乞いも額を地面に擦り付けて懇願するぐらいなら、顔はしかたないとしても、おフロに入るなり、垢だらけの着物を着替えるなりして、少しでも彼女に嫌われないよう努力すればいいのに……
そのあたりに気が付かない頭の悪さがこの物乞いが物乞いをやっているゆえんなのだろう……
と思ってしまいました。

女ごころの分からない船員。

女性として当然の感覚「生理的にムリ」という感情に従っただけなのに不幸になってしまったあやめ太夫。

恋をかなえる手段が土下座することと、逆上することしか思いつかないなんとも残念な物乞い。

人間臭くて素朴な人々が繰り広げるどこかおかしみのあるストーリー。

トランクに入って密航するというのも、突っ込みどころ満載ですが、そのあたりが草創期の映画らしくほほえましいです。

画像は葉涙さんによる写真ACからの写真