谷崎潤一郎『魔術師』耽美な名作

感想、考察

わお! 耽美!

というのが第一の感想です。

しかし決してふわふわした耽美小説ではなく、どこか人間の深層心理をとらえているようなところがあるのがさすがですね。

同じ傾向の作品にはやはり大正時代に書かれた『人魚の嘆き』があります。

この作品はところどころで夢と夢想、現実があいまいになるように工夫がされています。

例えば冒頭は

私があの魔術師に会ったのは、

何所の国の何と云う町であったか、

今でははっきりと覚えて居ません。

 

――どうかすると、其れは日本の東京のようにも思われますが、

或る時は又南洋や南米の殖民地であったような、

或は支那か印度辺の船着場であったような気もするのです。

という言葉で始めるのですが物語の最後まで読んだ人はちょっとおかしいと思うことでしょう。

たしか主人公は最後には魔術師に魔術をかけられてファウンになってしまったはずですよね。

また主人公はこの公園が大好きで何度も訪れているはずなのですが、公園へ行く道や公園を見て驚いているさまはまるで初めて行った人のよう。

彼女に連れられて魔術師の小屋へ向かう最中の、主人公の空想のなかの恋人との愛の会話も、空想なのか現実なのかは、重要ではなくなっています。

他にもところどころで夢と現実があいまいになるような工夫がされているので、ぜひ探してみてください。

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