谷崎潤一郎『少年』あらすじ

栄ちゃん、信一のとりことなる

その日以来栄ちゃんは毎日のように信一の家に遊びに行くようになりました。

早く遊びに行きたくて、授業が終わるのが待ち遠しいほどです。

そして明けても暮れても信一や光子の顔が頭から離れません。

お雛祭りの日以来、信一のわがままは募り、行けば必ず信一にぶたれたり、縛られたりします。

光子も今ではすっかり信一の手下で、いじめられ役でした。

信一はおもちゃの刀を振り回すので私も、光子も、仙吉も体に痣の絶えたことがありません。

毎日乱暴なごっこ遊びをします。

私と仙吉が光子を縊め殺して金を盗むと、信一が姉さんの仇と云って二人を殺して首を斬り落したり、信一と私と二人の悪漢がお嬢様の光子と郎党の仙吉を毒殺して、屍体を河へ投げ込んだり、いつも一番いやな役廻りになって非道い目に合わされたのは光子である。

しまいには紅や絵の具を体へ塗り、殺された者は血だらけになってのた打ち廻ったが、どうかすると信一は本物の小刀を持って来て、
「此れで少うし切らせないか。ね、ちょいと、ぽっちりだからそんなに痛かないよ」

こんな事を云うようになった。

すると三人は素直に足の下へ組み敷かれて、
「そんなに非道く切っちゃ嫌だよ」と、まるで手術でも受けるようにじっと我慢しながら、其の癖恐ろしそうに傷口から流れ出る血の色を眺め、眼に一杯涙ぐんで肩や膝のあたりを少し切らせる。