谷崎潤一郎『少年』あらすじ

夜の西洋館

栄ちゃんは「水天宮の縁日に行く」と嘘をついて家を出ました。

光子、仙吉とは

暗くなった時分に表門から西洋館の玄関へ忍び込み、光子が鍵を盗んで仙吉と一緒にやって来るのを待ち合わせる。

但し私が時刻に遅れるようであったら、二人は一と足先に這入って、二階の階段を昇り切った所から二つ目の右側の部屋に待って居る

という約束でした。

さて栄ちゃんは西洋館に行ってみましたが光子と仙吉の姿は見えません。

夜の人気のない広大な屋敷の中、栄ちゃんは恐ろしくなります。

神様、私は悪い事を致しました。

もう決してお母様に をついたり、内證で人の家へ這入ったり致しません

と夢中で口走り手を合わせ、家に帰ろうとしましたが、その時、西洋館の扉の向こうに小さな灯りを発見します。

おや、二人共先へ這入ったのかな

と栄ちゃんが玄関の取っ手を回すと、鍵は開いていて中に入ることができました。

中に入ると、正面にらせん階段が見え、ろうそくの明かりが灯っていました。

栄ちゃんはらせん階段を上りますが、上がるにつれて暗くなります。

階段を上ると、約束の「二階の階段を昇り切った所から二つ目の右側の部屋」を見つけます。

扉の外から様子を伺うと、その部屋はひっそりと静まり返っています。

ドキドキしながら扉を開けると、こんな部屋でした。

ぱっと明るい光線が一時に瞳を刺したので、クラクラしながら眼をしばたゝき、妖怪の正体を見定めるように注意深く四壁を見廻したが誰も居ない。

中央に吊るされた大ランプの、五色のプリズムで飾られた蝦色の傘の影が、部屋の上半部を薄暗くして、金銀を鏤めた椅子だの卓子だの鏡だのいろ/\の装飾物が燦然と輝き、床に敷き詰めた暗紅色の敷物の柔かさは、春草の野を蹈むように足袋を隔てゝ私の足の裏を喜ばせる。

部屋には美しい西洋の乙女の半身像がかかっています。

厚い金の額縁で、長方形に劃(しき)られた畫面の中に、重い暗い茶褐色の空気が漂うて、纔(わず)かに胸をお納戸色の衣に蔽い、裸体の儘の肩と腕とに金や珠玉の鐶(わ)を飾った下げ髪の女が、夢みるように黒眼がちの瞳をぱッちりと開いて前方を視つめて居る。

暗い中にもくッきりと鮮やかに浮き出て居る純白の肌の色、気高い鼻筋から唇、頤、両頬へかけて見事に神々しく整った、端厳な輪廓、―――これがお伽噺に出て来る天使と云うのであろうかと思いながら、私は暫くうっとりと見上げて居た